在宅看取り/元気なときに想う最期と、本当の最期に想うことは違うかもしれない

“わらじ医者”として全国的にも知られる京都の名物ドクター・早川一光医師をご存知でしょうか。
イッコウ先生は、地域医療や在宅医療の先駆けでした。
そして2016年、94歳で亡くなられました。

ここで問題定義したいのは、在宅医療か病院医療か?ということではありません。

ただ、「元気なときに想う最期」と「実際の最期」は、どうやら違うようです。
早川先生が残してくださった記録から、私たちは気づくべきことがあるのではないかと思いご紹介させていただきます。

 

畳の上で大往生

芸人さながらの軽妙なおしゃべりが人気で、地元のKBS 京都では30 年以上ラジオ番組をもち、シニアに死を否定的に考えさせず、「どう死んでいくか」を明るく語るカリスマでもありました。
そしていい死に方とは「畳の上での大往生」と語ってきました。

 

 

 

 

 
ETV特集(NHK)より

そのイッコウ先生に想定外のことが起きる。
圧迫骨折がきっかけで「多発性骨髄腫」(血液のがん)が見つかった。

 

往診する立場から、往診される立場へ

イッコウ先生は往診“する”立場から、往診“される”側になった。
しかしながら、“在宅医療のプロ”であるはずのイッコウ先生と、その家族ですら、いざ自分がその身になると、簡単に答えを出せない。
積極的に治療するか、食事をできなくなった後に点滴を続けるか、大事な局面で何度も迷った。

「病院で死んではいけない」「畳の上の大往生」と伝え、「延命措置を受けるかどうかも家族と考えておきましょう」と語ってきたのに…。
時に、言ってきた事とやっていることに矛盾があるのではないかとも気にしていた。

「理想の晩年」「死にたくない」という自分の思い。
そして「一分でも一秒でも生きていてほしい」という家族の願い。
天井を見つめながら、渋い顔で思案するイッコウ先生の表情が印象に残る。

 

こんなはずじゃなかった

イッコウ先生は元気な頃、取材班に「わたしが死ぬところを撮影しに来なさい」と言った。
そして公開されたドキュメンタリー番組の中で
「こんなはずじゃなかった」
「おれは何をしてきたんやろ?」

「『在宅は天国や』と言うてみんなをワァーッと煽ってきたけれど、実際に天国なんか? かえって地獄じゃねぇか」と語った。

「ひとの世話になって生きることは、これほど居心地の悪いものなのか。自分が健康だったとき、患者の気持ちがわかったつもりで、本当はわかっていなかったのではないか」と、イッコウ先生は自己嫌悪をさらけ出す。
そして「夜が恐い。病気になって初めて感じたことです」と弱音を吐く。

 

あるとき、自分より若い主治医から「いざというとき、どうするか?決めなければならない」と言われ、言葉に詰まる。
苦しくなったとき病院に搬送するか、それとも在宅で過ごすか?ということだ。

 

総合人間学とはなんだ?

イッコウ先生は毎日天井を見つめながら、哲学や宗教、芸術などとつながった、より豊かな医療が必要であると感じていた。
そして在宅医療に興味のある若者を集め、自宅でディスカッションなどを行なっていた。
イッコウ先生自身が答えを見出したかったのかもしれない。

患者自身が最期を家で迎えたいと言っているのに、病院に運ばれてしまったり、往診の医師が救急車を呼んでしまったりする…という問題定義があった。
そしてイッコウ先生は、”医療の力では、最期まで人を診ることはできない”、”何かが足りない”と感じた。

そこで「総合人間学」と思った。
ただ、「総合人間学とはなんだ?」と聞かれたら…
「あるんだ、そこにある。だけど煙のように消えてしまって掴めないんだ。」と頭を抱えるように考え込んだ。

 

最期のとき、本当に大切なことは何だろう?

 
自らつくり上げた療養生活に支えられた最期
(YouTube)

6年前の特集ですが、投稿してくださっている方がいるのでよかったらご覧ください。

 

 

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この記事を書いた人

 

 

 
看取り対話師協会主宰
一般社団法人日本ナースオーブ
代表理事/せのようこ
看護師経験30年

認知科学・コミュニケーションの講師を15年務める。より良いお看取りを日本に広めるため、経験10年以上の看護師チームで保険外訪問看護サービスを開始。
代表よりご挨拶

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