看取り対話師は積極的な関りを行いますが、物理的には、私たち看護師にできることはさほどありません。すでに治療の段階を終え、介護の段階も終えようとしている人に、行動や言葉のレベルで何かできるものではないでしょう。ではお看取りとは?せめてそばに居る者が、安心した状態でいることです。人間の身体は発信器であり受信器。お看取りの人は自我から離れているため、体感で受け取る情報が多く、本質的なヒーリングが主となります。
よって、ご本人に安心して最期の時を迎えていただくために出来るせめてものことは、関わる看護師自身が完全に安心していることです。そのため私たちはお看取りに関わらせていただく者として、常日頃から心の平和=Inner peaceを体得しておかねばなりません。
戦後の物質時代を生きた方々は、淋しさや恐怖や不安をいったん横において、日本の復興のために尽くして来られました。そのため人間関係においては、心の中に葛藤を抱えていることが少なくありません。
以前、相続を担当する保険会社の人と一緒に、高齢者さんのお話を聞いて回っていたことがあります。そのときとても多かったのが、身内とのいざこざです。ある85歳の女性には妹さんがいらっしゃいましたが、「あの子にはビタ一文やらん!」「あの子だけは絶対に許さん!」と怒りを露わにしていました。また別の男性は、ご自身の息子さんに対し「あいつはもう縁切ったんや!」「一切関係ない!」と言い切っていらっしゃいました。
お二人とも、その揉めごとがあったときの感情ははっきりと覚えていらっしゃるようでしたが、それが数十年前のことであると知って驚きました。20年、30年会っていないにも関わらず、まるで昨日の出来事であるかのようにリアルにお話をされていました。
お話を伺っていて、何となくそれは本心ではないような気がしました。本当は相手のことが気になって気になって仕方がない。わかってほしいのに、それが伝わらないから余計に腹が立つ、という状況ではないでしょうか。実は、そうなってしまうのは心の仕組があるためです。脳の理(ことわり)と同じです。
あなたにも私にも全ての人にこの仕組があります。人間の記憶力というのは、本来は創造性のために使うべき能力であるはずですが、多くの人は望ましくないことの記憶を強化させています。自分自身の中にこの仕組があるということがわかれば、本心はそうではないと気づくことができるかもしれません。
もしその方が、本心は違っていたことに気づき、それを言葉にできたなら…。きっと愛を取り戻されるだろうと思います。ですが、それが叶わなくとも、お看取りのときにそばにいる看護師が自分自身に正直でいること。心の仕組を理解し自分自身を知っていれば、身体の感覚を通して安心が伝わるかもしれません。看護は愛だと思うのです。
この記事を書いた人
看取り対話師協会主宰
一般社団法人日本ナースオーブ
代表理事/せのようこ
看護師経験30年
認知科学・コミュニケーションの講師を15年務める。より良いお看取りを日本に広めるため、経験10年以上の看護師チームで保険外訪問看護サービスを開始。
代表よりご挨拶
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